ヒデ、泣くな!

あたしは基本的に男の涙に弱い。ので、ヒデがピッチで泣いた姿は想像するだけでも胸に迫るものがあったし、新聞やネットで実際に写真を見て、本当に辛かった。


あたしはサッカーには詳しくないけれど、ヒデが「孤高の天才」など呼ばれているのは知っている。練習メニューもチームメイトとは別にこなし、個人でもくもくと励んでいたとか。
そしてそんなヒデに反感を持つチームメイトがいるのも当然といえば当然で、敗戦の理由にそれを挙げていたメディアも少なくない。


少し前野球で、イチローもそうだったのだそう。そしてWBCの時、そのイチローがチームメトに積極的に話しかけたりコミュニケーションを取るようになり、それが良い方向に働いたと報道されていた。
そしてヒデも今回、直前にそのような歩み寄りが見えたとも聞いている。


チームメイトとのコミュニケーションというのは、確かに重要である。それはサッカー日本代表だけでなく、私達の職場でも、バイトでも、部活でもサークルでも、きっと同じだろう。自分ひとりでなにかをやっているのでなければ、コミュニケーションというのは確実にいつでも、いつまでもついてまわることなのだ。
それでも私は、ヒデにはいつまでも弧高の天才、でいてほしい。結局のところ、そういう選手も必要なのだ。コミュニケーション下手でもいい。有無を言わせないオーラで人々を引きつけるスター選手はどうしたって必要なのだ。だから、ヒデにはそういてほしいと思う。


彼のことをコミュニケーション下手と言ってはいけないかもしれない。語学に長けていて、他国の選手とも気軽に言葉を交わせるのだというし。だから彼のコミュニケーション下手というのは、同じチームメイトに対してだけなのかもしれない。だからそれが問題なんだよ、と言う人もいるかもしれないが、あたしにはなんとなくその気持ちがわかる。いや、世界で戦うトッププレイヤーと自分が同じ気持ちを共有しているように書くのはおこがましいし、決してなれなれしい気分で言っているわけではないのだけれど。
ある場所で上を目指すためにはどこかでストイックになる必要があるんじゃないかと思う。その場で馴れ合ってしまわないように、自分を戒めてかからないとその雰囲気に喰われてしまうという恐怖感がある。こういうことを言ってしまうのは良くないかもしれないけれど、結局のところ、喰うか喰われるか・なんだ。自分が上を目指すためには、喰われるわけにはいかない。他人を蹴落とすまでしなくても、自分は蹴落とされないように身を守るしかない。そのためにはある程度壁なりなんなりを築くことだって必要な場合がある。その行為が彼の場合、「孤高」と呼ばれるような行動なのではないかと思う。それは悪いことなのか?いや、そんなことは決してない。なぜならば、それは彼自身が強くなるためだから。


そうは言うものの、周りから見れば気に入らなく映ることだってわかる。彼に対していい気持ちを抱けない人がいるのもわかる。だけれど、チームメイトに気に入られる為に彼がその姿勢を崩す必要なんて全然ない。同時に、彼の周りの人々が、彼に対して劣等感だとか畏敬の念とかを抱く必要だってない。孤高の天才だろうと、奇跡の選抜だろうと、控えだろうと、チームメイトということはつまり同等なのだから。だからこそ、お互い尊重してほしい。それぞれのやりかたというものを、それぞれのモチベーションの上げ方というものを、認め合った上でのコミュニケーションだって絶対に存在しうるはず。
特にこの国では、「みんな一緒」が尊重されていたり、美しいこととされている傾向が強いから、ヒデみたいなやりかたに賛成できない人たちがいるのもわかる。そして「みんな一緒」が悪いことだとも言えないけれど、それが全てではないだろう?とも思う。特に彼らの戦っている勝負の世界では、そんなこと言ってられないよ。だから、勝つために周りに敵を作ることだって、ありえるんだ。


マスコミは勝手なことを言う。部外者も勝手なことを想像する。あたしなんて、「勝手なことを想像する部外者」の見事に一員だ。だからこんなあたしの戯言だから、全然的はずれなこと言ってるんだと思う。それはわかった上で書き続けるけれども、
ヒデ、泣くな!
あなたは間違ってない。コミュニケーション不足を今回の敗因だったと挙げる人々もいる。そしてもしかしたらそれも原因のひとつなのかもしれない。私には確かなことはわからないけれど。
それでも、あなたのやりかたは間違っていない。だから泣くな。